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熊本家庭裁判所 昭和44年(少)1078号 決定 1969年5月27日

少年 A・B(昭二四・八・五生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

当裁判所が昭和四二年五月一八日為したる「少年を中等少年院に送致する」旨の決定はこれを取消す。

なお、熊本保護観察所長は、環境調整につき、次の措置を執ること。

一  少年の保護者には少年院への面会、少年との文通とにより、少年に対し暖かい気持をもつて接し、意思の疎通を図るよう指導すること。

二  少年の退院に当りては、少年に理解を持ち、住込みで雇傭されるべき職場の斡旋をすること。

理由

(非行事実)

少年は、

一  昭和四四年四月○日午前一一時三〇分ごろ、熊本市○○○町○番○号株式会社「き○ぶ○書店」ビル六階寮内の小○修(一八歳)の部屋において、同人所有のトランジスターラジオ一台(時価四、〇〇〇円相当)およびテープレコーダー一台、テープ一本(時価合計八、〇〇〇円相当)を窃取し、

二  同月△日午後一時ごろ、同市○○町○○××××の○番地○アパート二階一二号室一○瀬○行(二三歳)方六畳の間において、同人所有のコロンビアテレビ一台(時価二万八〇〇円相当)およびフジカ三五-EEカメラ一台(時価七、〇〇〇円相当)を窃取し

三  今○久○子と共謀の上、同月○○日午後一一時ごろ、同市△△町○○番○○号旅館「八〇代」こと坂○ヤ○ヨ方において、同人に対し、所持金なく代金支払いの思意もないのに、それあるもののように装い、「部屋は空いていますか」と申向け、同女をして間違いなく代金の支払いを受けられるものと誤信させて、同日夜から翌△△日午後一時三〇分ごろまで同旅館に投宿し、宿泊料金一、一〇〇円相当の支払いを免れ、よつて財産上不法の利益を得、

四  今○久○子と共謀の上、同月□□日午後二時三〇分ごろ、同市××町○○番地国○方間借人楠○武の部屋において、同人所有の背広一着(時価一万円相当)を窃取し、

五  同月○○日午後五時五〇分ごろ、前同楠○武の部屋において、同人所有の三菱テレビ一台(時価五万円相当)を窃取し

たものである。

(適条)

一、二、四、五の事実につき、刑法第二三五条、三の事実につき、同法第二四六条第二項

(処遇)

少年は昭和四三年七月一一日福岡少年院を仮退院したものであるが、院内で習得せる印刷工としての技術を生かして稼働したのは、同年九月より一一月初め頃までの二ヶ月程度に過ぎないで、殆んど徒遊生活を続けている。その上仮退院に基く保護観察下にありながら、保護司の指導に服せず、ともすれば連絡を断ち、保護司との接触を避ける傾向にあつた。性格的には極めて耐性が乏しく、弱性格、自己中心的で、自信欠如し、困難に出会うと自棄感に陥りやすいものがある。

家庭に対する不適応性が見られ、親から離れて独立して生活したい欲求が強いが、上記性格面から、意思と実行が一致せず、安易な方向に走つているようである。

前件非行も本件一連の非行も女と同棲中に、その生活費に窮しなされたもので、困難からの逃避的行動と解さなければならない。このように少年の心的状態の異常さを招来した原因としては、親兄弟との年齢的差から、家庭的団楽の機会が殆んどなかつたので、自分の立場とか気持を家族に理解させることも叶わず、次第に精神的に親兄弟と離れ、自我にこもり、自分勝手な判断で行動をする習慣がついて来たことにあると考えられる。

今後少年が更生し得るとすれば、家庭との心理的結びつきはもとよりのこと、少年の心情を理解し、指導監督し得る雇傭主のもとにおいて稼働させることが必要である。

少年は中等少年院の収容歴を持ち、年齢も二〇歳に近いことから刑事処分も当然に考えられるところであるが、盗品の殆んどが被害者に還つていると共に、実害について保護者において誠意を持つて弁償に当る様子がうかがわれ、少年の弱性格の矯正がなされれば更生に至ることも困難ではないことから、保護処分の段階においてその処遇を図ることとする。

ところで少年の処遇については、現在のところ、保護者と少年との心的結びつきは殆んどなく、少年の家庭離反的心情は依然として強いものがあるし、保護者の少年に対する保護能力は極めて薄弱であり、他に在宅の方法をもつて少年の更生をはかり得る社会資源も無いので、少年に対し、一段と高度の徹底した矯正教育を施すために、再度少年院に送致して、施設内における教育的処遇の成果に期待を寄せるのが相当と思料される。

しかしながら、本少年の場合は送致の時より一か年で定年退院となるわけであつて、収容継続から仮退院の措置が予想されないでもなく、斯くして保護観察下に若干の期間あらしめることも、少年の更生の確実を期するためには考えられないでもないが、現段階において、執行の将来につき予測を抱くべきものではないから、少年の更生の方途として前指摘の点につき実効を企図して、保護観察所長に環境調整の措置を希うことにする。

よつて、少年法第二四条一項三号、同条第二項、同法第二七条二項、少年審判規則第三七条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 末光直己)

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